片道切符と夢の話

浪華の七星と日向の坂道

虚妄はてなブログ 第11話

 

 

早く窮鼠見たい

舞佳ちゃんの回想です

 

↓↓

 

あれは、紛れもない初恋だった。

高校1年の春、クラスで仲良くなった結衣と2人で行った、吹奏楽部の見学。
私は中学のときも吹奏楽部だったけど、そこでの練習はすごく厳しかったから高校ではやらないつもりだった。
結衣に付き合って仕方なく見学に行ったとき、そこに彼はいた。
音楽室の窓際で外を眺める、物憂げな横顔。
白いカッターシャツが春風に揺れて、まるで天使の羽みたいだった。
重岡大毅先輩。
私たちの1つ上で、楽器はトランペット。
次の代の部長だと教えてもらった。

 

まるで引力に導かれるみたいに、気づいたら私は吹奏楽部の新入生として活動を始めていた。

 

中学時代からフルートをやっていた私は即戦力として認識され、夏の大会のメンバーに選ばれた。
けれどいくらメンバーとはいえ、先輩の足を引っ張る訳にはいかない。
朝から自主練をしようと、曇り空の中を学校に向かった。

 

「なにこれ…… 学校の怪談?」
それは、そんな独り言が漏れるほど、奇妙な空気だった。
私以外誰もいない、静かな廊下。
けど廊下の先にある音楽室からは、ピアノの音色が聴こえてくる。
なんだか怖くて、私は音楽室の外の廊下に椅子を出して練習することにした。
フルートは音が細いから、見つかってもうるさいと怒られることはないだろう。
練習をしている途中、私の耳は聞き覚えのあるメロディを拾った。
私たちが大会で演奏する予定の曲だ。
本来はパートに入っていないピアノなのに、寸分の音の狂いもなくメロディラインをなぞっている。
うちの部活の誰かが、練習をサボって弾いているのだろう。


何気なく、フルートで自分のパートを吹いて合わせてみる。
すると、中にいる人物も私の存在に気づいたのか、私の音色に寄り添って伴奏してきた。

その伴奏は優しく、私の音を包み込んだ。

音の波間に揺れているような、心地よい浮遊感すら感じる。

2人分の音がぴたりとはまり、爽やかで軽快なマーチのメロディが朝の学校に響き渡った、そのときだった。
曇り空から太陽が顔を出し、一気に青空が広がった。
神々しくて、美しい光景だった。
空に光の道ができ、私の持つフルートに金の鱗粉が輝く。
そのとき、私は鮮烈な直感を感じた。
抗いがたい衝動に突き動かされ、フルートを片手に音楽室のドアを開ける。
ピアノを弾いていたのは、重岡先輩だった。


天候すら操ってしまったかのような、私たちの音の競演。
先輩はこう言った。
《やっぱり舞佳ちゃんやったんや、あのフルート。》
《1人で吹いとるとこ聴いたことないのに、なんでかピンときたわ》
《俺たち、音の相性ええみたいやな。》

吹奏楽部員同士にとって、音の相性がいい、とは最高の殺し文句である。
私はその瞬間、彼に、彼が奏でる音に、恋に堕ちた。

高校1年生の夏。
身を焦がすような初恋が、動き始めた。

 

 

舞佳ちゃんが吹いていた曲はこれです

 

https://youtu.be/cnGvAxIRL9M

 

 

この曲めっちゃ好き