虚妄はてなブログ 第2話
需要がない?
いや、書きたいから書いてます。
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聞き慣れたアラーム音が、見慣れない部屋に響く午前6:30。
ビジネスホテルのベッドの上で私は朝を迎えた。
あの後、かずくんが滞在していたホテルに私も泊まることになったのだ。
ベッドから降りていつものルーティンをこなし、一通りの身支度が終わったあたりでインターホンが鳴った。
「はーい」
『おはよう、舞佳ちゃん。』
1つ上の階に泊まっていたかずくんが、元気よく顔を覗かせた。
「おはよ。朝ごはんどうする?」
『さっきコンビニで買ってきてん。一緒に食べよ?』
「ありがとう!」
窓際のテーブルに、買ってきてくれたものを広げる。
『はい、舞佳ちゃんの分』と言って渡されたのは、昔から大好きなココアとメロンパン。
もしかして、私の好み覚えててくれたのかな?
そんな私を後目に、プリンを食べながらかずくんがこう切り出した。
『チケット取れたで。明日の7:28発、大阪行き。』
『でさ、俺レンタカー借りてきたから、今日は運転手するわ』
「……かずくん、何から何までありがとね」
『ええよ、舞佳ちゃんが来てくれるなら。』
「大阪着いて落ち着いたら、プリン作ってあげるね。」
『まじで? 俺舞佳ちゃんのプリン大好きやねん!ありがと!』
いつの間にか、笑ってた。
かずくんと話していると、なぜだか落ち着く自分がいる。
ホテルを出て、レンタカーであのアパートに向かってもらう。
ついて行くと言い張るかずくんを車に残して、"私たち"の部屋だった8階の817号室の前に立つ。
でもやっぱり、人間たった1日では立ち直れなくて。
昨日の記憶がフラッシュバックしてふと泣きそうになってしまったとき、手の中でスマホが震えた。
『舞佳ちゃん、俺トイレ借りたいからやっぱり一緒に行ってもええ?』
きっと、気を遣わせてしまったんだな、と思う。
お手洗いには見向きもしないで私の服を大量に詰めたカバンを持って車に戻っていくかずくんの後ろ姿に、心の中で謝った。
そして部屋を片付け、パソコンと調理師免許の免許状、今まで書き溜めたレシピノートを段ボールに詰め込んだ。
それから、お守り代わりのそれを1番上にそっと載せる。
「かずくーん!こっち終わったよ!」
ベランダから呼ぶと、まるでやまびこみたいに『今行くわー!』って返事がかえってきた。
それがなんだか面白くて、8階と外とで笑い合う。
かずくんが上がってくるまでの間、私のものが減った部屋をぼんやりと見回した。
5年間住んでいた家を離れるのに、何も感情が湧いてこないのがちょっと不思議だった。
玄関を出ると、最後に一瞥する暇もなくかずくんがドアを閉める。
合鍵がポストに入れられる音を聞きながら思った。
これで本当に、終わったんだ。
いや、終わらせてくれたのかな。
早く大阪行けよと思いました?
私も思ってます。