片道切符と夢の話

浪華の七星と日向の坂道

虚妄はてなブログ 第3話

明日から授業です早く寝ましょう

 

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次に向かったのはある喫茶店
中に入ると、奥の席に若い女性がいた。
高校時代からの親友、結衣だ。
彼女にだけは、昨日の夜のうちに連絡をしておいた。


《舞佳!》
「結衣、急に呼び出してごめんね、仕事大丈夫なの?」
化粧品メーカーに勤める結衣が土日も仕事をするほど多忙なのは知っていたから、申し訳ない気持ちになる。
《うん、今日は休みだったから。それより舞佳…》
結衣が、私の隣に立つかずくんに怪訝そうな視線を投げた。
「この子は大橋和也くん。私のいとこ。」
《いとこ、?》
「うん、実は、結衣に話しておかなきゃいけないことがあるんだ。」

私は、結衣に昨日起きたことを打ち明けた。
勤めていたホテルが倒産したこと。彼氏の浮気現場を目撃して家を飛び出してきたこと。そして、たどり着いた夜の公園で数年ぶりに再会したいとこと一緒に、大阪に引っ越すこと。
彼女は、何も言わなかった。

昨日と同じ、沈黙。
《何それ、って言いたいとこだけど、舞佳らしいね。》
呆れたような声とは裏腹に、親友は優しく微笑んでいた。
《大阪のおばちゃんに負けないでね、って言っても舞佳なら大丈夫か。》
《落ち着いたら連絡して。また舞佳のお菓子食べに行くから。》
「結衣…ありがとう。」

穏やかな空気が戻ってきたとき、結衣がふと口を開いた。
《でも舞佳、服とか全部引きあげてきたんでしょ?それ持っていけるの?》
「それは……」
すると、それまで一言も喋らなかったかずくんが言った。
『じゃあ俺が車で運んで、舞佳ちゃんとは大阪で落ち合います。』
「でも、かずくん…」
『ええの。東京から大阪ぐらい慣れとるから。』
「かずくんに負担かかりすぎだよ、段ボールと一緒に宅配便で送ればいいじゃん、ね」
《はいはい、痴話喧嘩はそこまで!舞佳、良かったらうちで預かろうか?》
「え、でも結衣ん家マンションだよね?」
《大丈夫、うち今一部屋空いてるから。必要になったら送ってあげれるし、》
《その… 捨てれないものも、あるでしょ?》
「……ほんとありがとう。 じゃあ、お言葉に甘えて。」

そこから、3人で他愛ない話をして笑い合った。
私と結衣の高校時代の話や、かずくんと私の小さい頃の話。
笑って、たまに泣いて、喋って、愛しい時間が過ぎていった。
茶店を出て(お会計は私がお手洗いにいる間にかずくんがしてくれた)、結衣をマンションまで送り届ける。
《7:28発だよね、見送りに行く。》
「いいよ、朝早いし。」
《私が行きたいの!》
「そっか、ありがと、結衣」
《…ううん、じゃあまた明日。》


ホテルに帰る車の中で、私はいつの間にか眠っていた。
薄れる意識の中で、かずくんの声が聴こえた気がする。
何を言ってるかまでは、わからなかった。


(俺の初恋なんて、知らんくせに)

 

 

 

 

 

早く丈くん出さなかんから早く大阪行かなかん