片道切符と夢の話

浪華の七星と日向の坂道

虚妄はてなブログ 第10話

窮鼠はチーズの夢を見るが見たい今日この頃


↓↓

朝5時半。
嵐の一日のはじまりを、私はお店のソファ席で迎えた。
夜の音楽会の後、ただの酔っぱらいと化した忠義くんを1人放置する訳にもいかず、私たちはお店に泊まり込みという選択を強いられた。
いつの間にか掛けられていたブランケットから抜け出し薄暗い店内を見回すと、ソファの側に大きな塊を見つける。
そこでは丈くんとかずくんが、忠義くんの大きな身体にもたれかかって眠っていた。
なかなか見ない光景に驚いたけど、なんだろう、なんか微笑ましい。
「ふふっ、くまみたい…」
その姿はいつか教育番組で見た冬眠中のクマの親子にそっくりで、思わず笑みが漏れた。
その光景を写真に収めて3人にブランケットをかけ、コーヒーでも飲もうと立ち上がった。

 

自分でいれたコーヒーを飲みながら、スマホをチェックする。
アプリの通知に混じって、結衣からの連絡があった。
なんだろう?と思って既読をつけると、電話が鳴る。
結衣からだった。

「もしもし?結衣どうしたの?」
〈あ、舞佳ごめんね。あのさ、今出張で大阪にいるから、お店行ってもいい?〉
「いいけど、今日台風なんでしょ?大丈夫なの?」
〈うん。車で来てるから。〉
「そっか。結衣が来てくれるなんて嬉しい。場所送るね!」
〈あとね。〉
〈舞佳に、話さなきゃいけないことがあるの〉

そう言って、結衣は電話を切った。


数年に一度の大型台風が接近する朝、親友が東京からやってくる。
話さなきゃいけないことって、なんだろう?

〔電話してたん?〕
顔を上げると、いつの間にか起きていた丈くんが向かいに座っていた。
「うん。東京にいる友達が、出張のついでにお店来てくれるんだって。」
〔そか。よかったやん。〕
『なあ、今の電話って結衣さんから?』
かずくんも起きてきたから、私は2人に結衣に言われたことを話す。
〔電話じゃ話せへん、ってことなんかな?〕
「そうなのかな… 」
『台風の日にわざわざ来るって相当ちゃう?』

〔というか、その前に大倉さんなんとかせなやばない?〕
丈くんの一言で我に返った私たちは、忠義くんを3人がかりで叩き起しはじめた。
私たちによって冬眠から引っ張りだされた彼は電車が止まる前に帰れと丈くんによって放り出され、お店は私たち3人だけになった。

 

しばらくそうしていただろうか。
外で車の音が聞こえた。
扉を開けて中に入ってきた親友と、私は1ヶ月半ぶりの再開を果たした。

 

結衣に丈くんを紹介し、テーブル席にうながす。
かずくんがいれてくれたコーヒーを1口飲んだ結衣が、こう言った。
〈ねぇ舞佳、重岡先輩って、覚えてる?〉
「…うん。」
〈…先輩、結婚するんだって。〉
〈相手の都合で結婚式大阪でするみたいなんだけど、舞佳にウエディングケーキと引き出物のお菓子、頼んでくれないかって連絡きて……〉
〈紹介するの、断りきれなかった。本当にごめん!〉
「…… そっか。 大丈夫。結衣、先輩に連絡取れる?」
「やります、って、言ってほしい。」
〈で、でも舞佳!〉
「大丈夫。もう10年も前のことなんだよ?」
「今さら変な真似しないって。」
〈舞佳…… ごめんね。〉
「ウエディングケーキ、作ってみたかっんだ。結衣、わざわざありがとう。」

結衣は、お詫びにといって私が焼いたマドレーヌを購入し、お店を出て行った。
3人きりの店内に、沈黙が宿る。
破ったのは、丈くんだった。
〔なぁ舞佳、何があったん?〕

「私のね、バカな初恋なの。」
「かっこ悪いけど、聴いてくれる?」

 

 


重岡くん出したかったから嬉しいです☺️☺️
次回は舞佳ちゃんの回想編になります