片道切符と夢の話

浪華の七星と日向の坂道

虚妄はてなブログ お試し用?

なぜかバイト中に急に降ってきた設定で書きなぐりました

字数的に誰かのマシュマロに投げられなくて公開先がないのではてブの記事にします

連載…… 出来るならしたいけどな……

 

 

人生史上1番大変だった日といえば?って聞かれたら、きっと今日、って答えるだろう。

岸田舞佳、27歳。
パティシエとして勤めていたホテルが倒産して無職、帰ってきたら彼氏の浮気現場を目撃してアパートを飛び出してきたから家なし。

「はぁ……」
アパートからどれぐらい歩いたかわからないけど、ビル街の片隅に小さな公園を見つけた。

自販機でコーヒーを買って、ベンチに座るとなくしていた冷静さが帰ってきた。
「これからどうしよう……」
実家は遠いし兄弟姉妹もいない、友達も彼氏持ちばかり。
とりあえずはホテルに泊まるにしても、無職だしそこまでお金は続かない。
深いため息が、深夜の街に吸い込まれていった。

その時だった。

『舞佳ちゃん……?』
誰かに名前を呼ばれ、反射的に顔をあげる。
そこにいたのは、紺色のスーツ姿の小柄な男の人。
歳は同じぐらいか、少し下。
色白の肌と高めのハスキーな声が記憶の中で像を結び、わたしは思わず声をあげた。
「もしかして、かずくん?!」
3歳年下の従兄弟、かずくんこと大橋和也くん。
小さい頃から慕ってくれた、一人っ子の私にとっては弟みたいな存在。
「久しぶりだね! 一瞬だれだかわかんなかったや」
『舞佳ちゃんこそ久しぶりやね!』
『こんな時間まで仕事やったん?』
『お疲れ様やね』
彼の優しい言葉に、堪えていた涙が溢れてしまった。
『ちょ、どうしたん? なんかあったん?」


話している間、かずくんはずっと背中をさすってくれていた。
気持ちが楽になって、ほっとした。
「ありがとう、誰かに話聞いて欲しかったんだ」
『なぁ、…急な話でごめんなんやけどな』
『舞佳ちゃん、引っ越さへん?』
「……へ?」

『俺な、大阪で中学時代からの友達とカフェ立ち上げて、来月オープンやねん。
キッチンは俺で接客と経営は友達やねんけど、俺も友達もお菓子、作れへんねん。
パティシエの引き抜き行ってくる!って言うて東京来たから、手ぶらでは帰れへん…』
『舞佳ちゃんなら、きっと丈くんの期待にも応えられるから、お願い! 俺と、大阪来て?』

 

沈黙が流れる。口火を切ったのは、私。
「かずくん、1日待てる?」
『え……?』
「荷物と仕事道具、取りに行きたい。」
「かずくんはその間にチケット取っといて。」
『え、舞佳ちゃん、ほんまにええん?』
「うん、知らない街でゼロからやり直すのもいいかなって。 かずくんもお友達もいるなら心強いよ」
「これからよろしくね、かずくん。」
『…ありがとう、舞佳ちゃん。』

 

こうして、無職家なしだった私の大阪行きはわずか30分で決定した。
暑くて湿った、9月の夜のことだった。

 

 

 

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